やさしい秋田ふき

『ふきの葉のかさ 〜秋田のふきとやさしい殿さま〜』

むかしむかし、秋田の国に、**佐竹義峰(さたけ・よしみね)**という、たいそうやさしくて、まじめな殿さまがおりました。

ある日のこと、江戸の大きなお城に、全国からたくさんの殿さまたちが集まりました。みんなで自分の国の自慢をする日だったのです。

「うちの国の魚は天下一品じゃ!」
「うちの布は絹のようにやわらかい!」

そんな中、秋田の殿さま・義峰さまは、にこにこしながら言いました。

「秋田には長木沢(ながきざわ)というところに、竹のように太くて、かさのように大きな葉っぱをつけたふきがあるのです」

その話を聞いた他の殿さまたちはびっくり!

「ふきが竹のように太い?かさみたいな葉っぱ?そんなの、あるわけないだろう!」

とくに**松平安芸守(まつだいら あきのかみ)**という殿さまは、げらげら笑って言いました。

「そんなおおげさな話、誰が信じるか!」

けれど、義峰さまはにっこりして、

「では、ほんとうのふきを見せましょう」と、秋田のお城にいる家臣に、ふきを江戸まで送るように命じました。

秋田では、山を守る**十右衛門(じゅうえもん)**というやさしいお侍が、長木山(ながきやま)の深い谷へ入って、大きなふきを探しました。

やがて見つけたのは——
・まわりが一尺二寸(約36cm)、ながさ一丈二尺(約3.6m)のふき!
・もうひとつは、まわり八寸(約24cm)
、ながさ**三丈(約9m)**もあるような、びっくりふき!

十右衛門は大急ぎで飛脚(ひきゃく)にふきを託し、江戸まで運ばせました。

そして江戸の屋敷では、義峰さまが、そのふきを鉢植えにして床の間にかざり、ふきをつかったごちそうでもてなしました。

みんなそのふきを見てびっくり!
「こ、こんな大きなふきが、ほんとうにあったなんて!」

松平安芸守も、顔を赤くして、

「わしがまちがっておった…申し訳ない」と、ふかぶかと頭をさげました。

その日から、「秋田のふき」は全国に知られるようになり、ふきの葉は、ほんとうに傘になるくらい大きいと、江戸じゅうでうわさになりました。

それから何年たっても、秋田の長木沢では、大きくて元気なふきが育ち、みんなに愛される名物になりました。

そして今も、秋田では雨がふると、

♪ 秋田の国では、雨が降っても、
 唐傘(からかさ)などいらぬ、
 手ごろのふきの葉、サラリとかざして、さっさと出て行がえ ♪

と、にこにこ歌う人がいるとかいないとか。

秋田のふきは、大きくて、あったかくて、
 ちょっぴり照れ屋のやさしい心を、そっと守ってくれる秋田蕗の葉っぱ。

——どっとはれ。

秋田蕗